マイナンバーカード、93万枚が「本人希望」で廃止されていた
マイナンバーカードが「本人希望・その他」の区分で93万枚廃止されていた──そんな実態が、会計検査院の報告書で初めて公式に示されました。「ポイントがもらえると聞いて作ったけど、正直なんとなく不安で」──そうした声が積み重なった結果が、数字として可視化された形です。
2026年5月、参議院からの要請に基づく会計検査院の検査により、マイナンバーカードを取得後に「本人希望・その他」の理由で廃止されたカードが2025年7月末時点で約93万枚に上ることが、初めて公式に明らかになりました。自主返納の件数を国が把握していない中での、実質初の全体像です。
一方、この調査ではマイナポイント事業の消費活性化効果が約2兆4604億円と試算されています。普及という観点では一定の成果が示された一方で、同時に一定数の国民がカードを手放す選択をした──この両面を同時に見ることが、制度を正しく理解するうえで欠かせません。
この記事では、検査院の調査結果をもとに廃止の背景・更新制度の問題・リスクの実態を整理し、「自分にとってどう判断するか」のヒントをお届けします。
会計検査院が初めて明かした「数字」の両面
今回の調査は、2019〜2023年度のマイナポイント事業全体を対象としたものです。普及の「成果」を示す数字と、「代償」を示す数字が同じ報告書に並んでいます。まず主要な数値を確認しましょう。
注意:「本人希望・その他」93万枚のうち自主返納が何枚かは、総務省が把握していません。2023年6月分を対象とした12自治体調査では「本人希望・その他」のうち約4割が自主返納でした。
ひも付けミスの公表時期と廃止件数の関係
会計検査院が特に言及しているのが、2023年5〜8月、個人情報のひも付けミスが相次いで公表された時期に廃止枚数が増加した可能性があるという点です。他人の口座への誤登録、コンビニ交付での証明書誤交付など、一連のトラブル報道が国民の不安を高め、返納という行動につながった可能性を検査院は指摘しています。
一方で、マイナポータルの利用者数は2020年7月の176万人から2025年7月には7958万人へと急増しています。廃止した人がいる事実と、積極的に活用している人が増えている事実の両方を見ることで、制度の現在地がより正確に見えてきます。
93万枚は「多い」のか「少ない」のか
推定発行枚数(約1億1475万枚)に対して93万枚は1%未満にとどまります。しかし、会計検査院が公式報告書であえて言及した事実は、制度への信頼という観点で重要な意味を持ちます。利便性を実感できないまま廃止を選んだ人が一定数存在することは、制度設計の課題を示す指標の一つと言えるでしょう。
素朴な疑問にお答えします──マイナカードQ&A
「返納した人がそんなに多いなら、自分も考え直した方がいい?」「更新って本当に面倒なの?」。身近な疑問を5つにまとめ、事実をもとに答えます。
持つべきか、返納すべきか──3軸で考える判断の枠組み
「自分はどうすればいいのか」を整理するために、カードとの向き合い方を3つの選択肢に分けて、「利便性」「維持コスト」「安全性」の3軸で比較してみましょう。93万枚が廃止された背景には、この3軸のバランスが人によって大きく異なるという現実があります。
| 評価軸 | 案A:自主返納 | 案B:保有・全機能一元化 | 案C:保有・限定活用 |
|---|---|---|---|
| 利便性(手間の削減) | 低。行政手続きのオンライン化の恩恵なし | 極めて高。免許・保険証の一元化で携行物が最小化 | 高。確定申告やコンビニ交付など恩恵の大きい機能に限定して活用 |
| 維持コスト(更新負担) | なし。以後の手続き不要 | 高。複数の更新時期の管理が必要。紛失時の連鎖的な手続きも発生しうる | 中。電子証明書(5年)の失効をカレンダー管理するだけで対応可能 |
| 安全性(リスク管理) | 中高。カード紛失に伴う物理的なリスクを減らせる(マイナンバー自体は残存) | 低。紛失時の影響範囲が最大化する | 中。携行を最小限にし、暗証番号を別途管理することでリスクを抑制 |
案C(保有・限定活用)が、多くの人にとって現実的なバランスです。自主返納(案A)は将来のデジタル行政手続きで不利になる可能性があります。全機能の一元化(案B)は便利さの反面、紛失時のリスクが集中します。確定申告や住民票取得など恩恵の大きい機能に絞り、カードは自宅で安全に保管・管理する運用が最もリスクと利便性のバランスがとれていると考えられます。
実務的な対応:電子証明書(オンラインで本人確認を行うためのデジタル身分証)の5年期限をスマートフォンのカレンダーに登録して失効を防ぎ、確定申告やコンビニ交付など恩恵の高い機能に限定して活用する。
※以下の体験談は、一般的に報告されている利用者の声をもとに再構成した事例です。
持ち続けるメリットと、正直なデメリット
「結局、持っていた方がいいの?」という問いに答えるため、現時点での利点と課題を率直に並べます。どちらが重いかは、あなたの生活スタイルによって変わります。
持ち続けるメリット
- 行政手続きのオンライン化:引越し・住民票の写しなどの一部手続きがオンラインや24時間コンビニで完結。役所の窓口に並ぶ必要がなくなるケースが増えている。
- 確定申告がスムーズ:マイナポータルと連携することで、医療費・社会保険料などの控除情報を自動入力できる。自営業・副業のある方には特に時短効果が大きい。
- マイナ保険証で薬剤情報を一元管理:過去の処方薬や健康診断結果を医師・薬剤師と共有できる。複数の医療機関を受診している方に恩恵が大きい。
- 今後の行政サービスで主流になる見込み:政府は引き続きマイナカードを中心に行政手続きのデジタル化を進める方針。持っていない場合の「取り残しリスク」は今後じわじわ高まる可能性がある。
- マイナポータルの利用者が急増:2020年の176万人から2025年には7958万人に拡大。活用の幅が着実に広がっている。
デメリット・課題
- 電子証明書の有効期限が本体と異なる:カード本体は10年有効でも電子証明書は5年で更新が必要。知らずに使おうとして「使えない」と言われる場面が全国で発生している。
- 更新手続きに来庁が原則必要:申請から受け取りまで1〜2か月かかるケースがあり、仕事を休みにくい現役世代や、移動が困難な高齢者には大きな負担となっている。
- 紛失時に複数の機能が同時に失われる:保険証・免許証・公金受取口座などを一枚に集約している場合、紛失すると関連手続きが連鎖して発生する。再発行期間中の身分証明書の空白も課題。
- 自治体・医療機関での周知・運用にばらつき:更新時期や利用条件に関する制度情報が医療現場に十分伝わっておらず、窓口で誤った案内をされた事例が報告されている。
- 制度への信頼回復がまだ途上:2023年のひも付けミス問題以降、「大丈夫か」という漠然とした不安が一定数の国民に残っている。利便性より安心感を優先する層には心理的ハードルが続く。
※以下の体験談は、一般的に報告されている利用者の声をもとに再構成した事例です。
マイナンバーカードを返納するデメリットとは?
廃止(返納)を検討する際は、以下のデメリットも把握しておくことが大切です。一度廃止すると再取得には再申請と一定の期間が必要になります。また、行政手続きのオンライン化が今後さらに進む場合、カードがなければ対応できない手続きが増える可能性があります。確定申告の電子申告、証券口座の開設、一部のオンライン申請など、すでにカードがあれば大幅に簡略化できる場面は着実に広がっています。「今は使っていないから不要」と判断する前に、将来的な利用場面を想定しておくことをおすすめします。
返納手続きはどう行う?
返納を決めた場合の手続きは、お住まいの市区町村の窓口で行います。カード本人が持参するのが原則で、本人確認書類が必要です。代理人が手続きする場合は、委任状が必要になるケースがあります(自治体により異なる)。再取得はいつでも可能ですが、申請から受け取りまで数週間〜1か月以上かかるのが一般的です。なお、返納してもマイナンバー(12桁の番号)自体は消えず、行政上の番号として引き続き存在します。
あなたの状況に合わせた活用・注意のポイント
マイナンバーカードの「使いやすさ」と「感じるリスク」は、年齢・生活パターン・ITリテラシーによって大きく変わります。主な属性ごとに、現時点での向き合い方をまとめました。
マイナポータルとの連携による医療費控除の自動入力、住民票のコンビニ交付など、手続きの時短効果が最も実感しやすい層です。電子証明書の有効期限(5年)をスマホのカレンダーに登録しておくことが、「気づいたら失効していた」トラブルの防止に役立ちます。
マイナ保険証として活用すると、処方薬の重複確認や過去の検査結果の共有がスムーズになります。ただし更新手続きが現状では来庁必須のため、同行できる家族のサポートが実質的に必要な場合もあります。薬局の窓口でのカードリーダー操作に不慣れな場合は、スタッフへ遠慮なく声がけを。
カード本体は暗証番号・顔認証で保護されており、落としただけで個人情報が読み取られるリスクは低く設計されています。2023年のひも付けミスでは運用上の問題が指摘されました。ただし、不安が拭えない場合は法的に返納は可能です。返納前に「今後どの行政手続きで不便が生じるか」を一度確認することをおすすめします。
一枚に集約することで日常の携行物は減りますが、紛失時の影響範囲も広がります。免許証の紐付けを行う場合は、更新時期のズレ(マイナカードの電子証明書は5年・免許証は最大5年ですがタイミングが異なる)に注意が必要です。「まず保険証だけ紐付けて使い勝手を確かめてから」という段階的な活用も一つの方法です。
現時点では持っているだけでリスクはほぼありません。使う機会がなくても、将来的な行政手続きの電子化に備えた「保険」として保有を続けることにはそれなりの意味があります。ただし電子証明書の有効期限だけは定期的に確認しておきましょう。
今すぐ確認できる7つのチェックリスト
以下の項目を見て、自分の状況を整理してみてください。対応が必要なものから順に動き始めると、思ったより簡単に備えられます。
マイナンバーカード 現状確認チェックリスト
- 電子証明書の有効期限を確認している──カード本体(10年)と電子証明書(5年)は期限が別。マイナポータルアプリか役所窓口で確認できます。失効に気づかず病院や行政手続きで使えないトラブルが多発しています。
- 暗証番号を覚えている(または安全な場所に管理している)──暗証番号を3回以上連続で誤入力するとロックがかかります。解除には役所への来庁が必要です。
- 紛失時の連絡先(マイナンバー総合フリーダイヤル)を把握している──0120-95-0178。紛失時はまずカードの一時停止から。受付時間は公式サイトで確認してください。
- 紐付けしている機能の一覧を把握している──保険証・免許証・公金受取口座・各種サービスのうち、何を紐付けているかを整理しておくと、紛失時や更新時の手続きがスムーズです。
- マイナポータルにログインして情報確認を定期的に行っている──紐付けられた口座・情報を定期確認することで、意図しない登録や誤りに早期気づきができます。
- 次回の更新時期をスケジュールに登録している──更新は申請から受け取りまで最大2か月近くかかるケースがあります。有効期限の3か月前には動き始めることが安心です。
- 家族(特に高齢の親など)のカード状況を把握・サポートできている──高齢者の更新や紛失対応は、家族の協力が実質的に必要になるケースが多い。本人だけでなく家族単位で状況を共有しておくと安心です。
普及率と信頼は、別物である
今回の会計検査院の調査が示したのは、単純な「成功」でも「失敗」でもありません。1兆3905億円を投じたマイナポイント事業によりカード申請が大幅に増加したという事実と、その一方で93万枚が「本人希望・その他」で廃止され、背景にセキュリティや制度への不信感があったという事実、この両方が今の日本の現実です。
薬局の現場では、高齢の患者がカードリーダーの操作に戸惑う場面が日常的に生じています。転職後に初めて病院を受診したら電子証明書が失効していた、更新の際に別の身分証の提示を求められた──こうした体験が積み重なることで、制度への信頼は数字以上の速さで揺らぐことがあります。
「持っているけどよくわかっていない」という状態が、実は最もリスクの高い状態かもしれません。電子証明書の有効期限を確認する、紐付けしている機能を把握する──まずはそこから始めてみてください。それだけで、いざというときの備えが大きく変わります。
普及率が高いことと、国民から信頼されていることは、必ずしも同じではありません。本当に重要なのは、「持つか持たないか」ではなく、「仕組みを理解したうえで自分で選ぶこと」です。
今日できるアクションステップ:
1. マイナポータルアプリ(または役所窓口)で電子証明書の有効期限を確認する
2. 紐付けしている機能(保険証・免許証・口座など)の一覧を書き出す
3. 次回更新時期をスマホのカレンダーに登録し、3か月前にアラートを設定する
4. 家族(特に高齢の親)のカード状況を一度確認・共有する
参考資料
本記事は以下の公的情報をもとに作成しています。
- 会計検査院「国会からの検査要請事項に関する報告」(2026年5月15日)
https://www.jbaudit.go.jp/report/new/kobetsu07/r080515.html - 総務省「マイナンバーカードの利活用促進に関する施策」
- デジタル庁「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて」
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