「免許証の提示だけ」はもう古い?2027年4月施行予定の本人確認新ルール
銀行の窓口で口座を開設するとき、あなたはいつも何を提示していますか?運転免許証を見せて、行員がチェックして、すぐに手続き完了。そんな当たり前の光景が、2027年4月から大きく変わる見込みです。警察庁が改正案を発表した新しいルールでは、対面での本人確認にマイナンバーカードなどのICチップ読み取りが原則必須になる予定です。
この記事で紹介する制度は、2025年12月時点で警察庁が改正案として発表し、パブリックコメント募集中のものです。正式な施行には今後の国会審議や官報公布が必要となります。2027年4月の施行を予定していますが、内容が変更される可能性もありますので、最新情報は警察庁や金融機関の公式発表をご確認ください。
なぜ今、本人確認が厳格化されるのか
近年、偽造された運転免許証を使った犯罪が深刻化しています。技術の進歩により、見た目だけでは本物と見分けがつかないほど精巧な偽造免許証が出回るようになりました。警察庁の報告によれば、こうした偽造身分証明書を使って不正に開設された口座が、特殊詐欺などの犯罪に悪用される事案が複数確認されています。
しかし、この制度改正の背景には犯罪対策だけでなく、より深い政策的な意図があります。それは、マイナンバーカードを中心としたデジタルインフラの統一です。日本政府は、公的個人認証サービス(JPKI)を国民のデジタルIDの基盤として位置づけ、社会全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しようとしています。
公表
パブリックコメント募集開始
4月
施行予定時期
ICチップ確認が原則に
偽造免許証による被害の実態
あなたは「自分には関係ない」と思うかもしれません。しかし、警察庁の報告によれば、特殊詐欺の被害額は依然として年間数百億円規模で推移しており、偽造身分証明書で開設された口座は、犯罪資金の受け皿として悪用されています。結果として、社会全体に大きな損害をもたらしているのです。この社会的な損害を食い止めることが急務となっています。
2027年4月施行予定の新ルール:何が変わるのか
警察庁が発表した犯罪収益移転防止法(犯収法)の施行規則改正案によると、対面での本人確認方法が大きく変わる見込みです。従来の「身分証を見せるだけ」という方法は原則として認められなくなり、ICチップの読み取りが必須となる予定です。
対象となる取引とは
新しいルールが適用されるのは、以下のような取引です。
- 銀行や信用金庫での預貯金口座の開設
- 証券会社での口座開設
- 暗号資産(仮想通貨)取引所での口座開設
- クレジットカードの新規発行
- 不動産の売買契約
つまり、金融機関だけでなく、不動産取引など幅広い場面で新しい本人確認方法が導入されることになります。
| 項目 | 現在(2025年12月時点) | 2027年4月以降(予定) |
|---|---|---|
| 対面での確認方法 | 運転免許証などの提示のみでOK | ICチップの読み取りが原則必須 |
| 使用できる身分証 | 顔写真付きの身分証明書全般 | ICチップ搭載の身分証のみ |
| 確認にかかる時間 | 数分程度 | PIN入力・読み取りで若干増加の可能性 |
| 代替手段 | 様々な方法が認められる | 住民票など限定的な書類+転送不要郵便 |
ICチップ搭載の身分証明書とは何か
「ICチップって何?」と疑問に思う方もいるでしょう。ICチップとは、カードの中に埋め込まれた小さな電子部品のことです。このチップには、カード表面に印刷されている情報以外にも、偽造防止のための暗号化されたデータが格納されています。
なぜICチップは偽造が困難なのか
ICチップが単なる写真や印刷よりも安全な理由は、公的個人認証サービス(JPKI)に基づいた公開鍵暗号技術にあります。チップ内には電子証明書が格納されており、読み取り時にはこの証明書によってデータが国の認証を受けていること、および改ざんされていないことが検証されます。つまり、見た目を真似しただけの偽造カードでは、この暗号検証をパスすることができないのです。
セキュリティのトレードオフ
ただし、マイナンバーカードに多くの機能が集中することで、新たなリスクも生まれます。「ハニーポット・リスク」と呼ばれる、価値の高い情報が一か所に集まることで攻撃の標的になりやすくなるという課題です。このため、国や金融機関には、これまで以上に厳格なセキュリティ対策が求められることになります。
ICチップ搭載の主な身分証明書
新ルールで使える身分証明書
- 1. マイナンバーカード:最も推奨される身分証。すでにICチップが標準搭載され、住所確認も同時に完了します。
- 2. 運転免許証:2007年1月以降に発行された免許証にはすべてICチップが搭載されています。極めて古い免許証でない限り、そのまま使用可能です。
- 3. 在留カード:外国籍の方が使用する身分証明書で、ICチップが搭載されています。
- 4. 日本国旅券(パスポート):2020年以降に発行されたパスポートにはICチップが内蔵されています。ただし、住所確認ができないため、別途転送不要郵便などによる確認が必要になる場合があります。
ほとんどの運転免許証はすでにICチップ対応済みですが、マイナンバーカードなら住所確認も一度に完了するため、最もスムーズな手続きが可能です。
実際の本人確認はどう変わる?具体的な手順
では、銀行窓口で口座を開設する場合を例に、具体的な手順を見ていきましょう。
新しい本人確認の流れ(2027年4月以降予定)
- 金融機関の窓口で口座開設を申し込む
- 行員がマイナンバーカード対面確認アプリまたは専用機器を準備
- あなたのマイナンバーカードをリーダーにかざす(または挿入する)
- 暗証番号(PINコード)の入力が必要―対面でICチップを読み取り券面情報を自動取得する場合、主に4桁の「券面事項入力補助用パスワード」を入力します(非対面取引では、4桁の利用者証明用パスワードと、必要に応じて6~16桁の署名用パスワードが求められます)
- ICチップ内の情報が自動的に読み取られる
- カード表面の情報とICチップ内のデータが一致することを確認
- 本人確認完了後、通常の口座開設手続きへ進む
重要な注意点:4桁の暗証番号(利用者証明用、券面事項入力補助用)は3回連続で間違えると、カードがロックされてしまいます。ロック解除には市区町村の窓口での手続きが必要になるため、事前に暗証番号を確認しておくことが大切です。
従来の方法と比べて、ICチップを読み取る工程とPIN入力が追加されます。特に導入初期は、機器の接続エラーや操作に不慣れな方へのサポート時間も含めると、従来より手続きに時間がかかる可能性があります。
メリットとデメリット:利用者の視点から
メリット
- 偽造身分証による不正口座開設が大幅に減少
- 特殊詐欺などの犯罪被害の減少につながる
- 本人確認の信頼性が高まり、安心して取引できる
- 将来的には手続きのスピードアップも期待できる
- 社会全体のセキュリティレベルが向上
注意点・課題
- 暗証番号(PIN)を忘れるとカードがロックされるリスク
- 初期段階では手続きに時間がかかる可能性が高い
- 金融機関側の機器導入・システム改修に大規模なコストが発生
- 高齢者など機器操作に不慣れな方への配慮とサポートが必要
- 代替手段を使う場合は書類準備と郵便受取で数週間かかる
- マイナンバーカードへの機能集中による新たなセキュリティリスク
マイナンバーカードを持っていない場合はどうする?
「自分はマイナンバーカードを作っていない」という方も安心してください。新しいルールでも代替手段が用意されています。ただし、この代替手段は意図的に手間がかかる設計になっていることを理解しておく必要があります。
代替手段の詳細と実際にかかる時間
ICチップ付きの身分証明書がない場合、以下の方法で本人確認が可能です。
- 住民票の写し(原本)を市区町村の窓口で取得して提示する(発行手数料:通常300~400円)
- 金融機関から送られる取引関係書類を転送不要郵便で受け取る(郵送に数日~1週間程度)
- 身体障害者手帳などの特定の書類による確認(限定的)
この方法では、手続き完了までに少なくとも1~2週間程度かかります。行動経済学の観点から見ると、これは「摩擦コスト」を意図的に高めることで、マイナンバーカード取得への強力なインセンティブとして機能する設計になっています。
スムーズな手続きを希望するなら、マイナンバーカードの取得を検討するのが賢明でしょう。
今からできる準備:2027年4月に向けて
新しい制度の実施まで、まだ約1年半の猶予があります。この期間を使って、以下の準備をしておくことをおすすめします。
- マイナンバーカードの取得:まだお持ちでない方は、市区町村の窓口またはオンラインで申請しましょう。発行まで約1か月かかります。
- 暗証番号(PIN)の確認:マイナンバーカードをお持ちの方は、4桁の利用者証明用パスワードを確認しておきましょう。忘れた場合は市区町村窓口で再設定できます。
- マイナポータルアプリのインストール:スマートフォンでの非対面取引に備えて、マイナポータルアプリを今からダウンロードし、動作確認しておくと安心です。
- 運転免許証の確認:2007年以降の免許証であればICチップ搭載済みです。極めて古い免許証の場合は更新時に自動的に対応版になります。
- 家族への情報共有:特に高齢の家族がいる場合、早めに新制度について説明し、準備を手伝ってあげましょう。
非対面取引も同時に変わる予定
今回の改正案では、インターネットを介した非対面取引の本人確認も厳格化される見込みです。オンラインで口座を開設する際も、スマートフォンでICチップを読み取る方式が原則となる予定です。
これにより、現行で広く使われている「身分証の写真を撮影して送信する方式(ホ方式)」や「身分証のコピーを郵送する方式(リ方式)」は、2027年4月以降は原則として使えなくなる見込みです。詳細な実施方法は今後の施行規則で確定されますが、早めの準備が推奨されます。
よくある質問:Q&A形式で解説
皆さんが気になる疑問にお答えします
金融機関の窓口に専用の読み取り機器が設置される予定です。スマホがなくても、窓口で本人確認が可能です。
基本的には既存の口座には影響ありません。ただし、将来的に不正利用が疑われる場合や、定期的な再確認(デューデリジェンス)が厳格化された場合には、既存口座の顧客にもICチップでの再確認が求められる可能性があります。
市区町村の窓口で再設定の手続きが必要です。3回連続で間違えるとロックされてしまうため、事前に確認しておくことを強くおすすめします。
在留カードにはICチップが搭載されているため、基本的に同じルールが適用されます。非居住外国人など一部例外もあります。
利用者側の負担はありません。金融機関が必要な機器を用意します。
ICチップ内の情報は公開鍵暗号技術により暗号化されており、読み取りには専用の機器とアプリが必要です。むしろ、従来の目視確認より安全性は高まります。ただし、マイナンバーカードに機能が集中することで新たなリスクも生じるため、国や事業者にはより厳格なセキュリティ対策が求められます。
金融機関側の対応:現場はどう変わる?
この制度変更により、最も大きな影響を受けるのは金融機関です。全国の銀行、信用金庫、証券会社などは、2027年4月までに以下の準備を進める必要があります。
- 窓口への専用ICチップリーダーの導入
- マイナンバーカード対面確認アプリのライセンス取得と導入
- 既存システムとの連携のためのAPI改修
- 職員への操作研修とトラブルシューティング訓練の実施
- 顧客への事前案内と説明資料の準備
- セキュリティ対策の強化
特に地方の小規模金融機関では、窓口ごとに専用ICチップリーダーの導入やシステム連携アプリのライセンス取得が必要となります。
このコストが高額になる理由は、単なる機器購入だけでなく、既存の顧客情報システム(勘定系システム)と公的個人認証サービス(JPKI)のAPI連携を新たに構築・改修する必要があるためです。具体的には:
- 機器コスト:ICカードリーダー/ライター(数千円~数万円×窓口数)
- ソフトウェア/ライセンスコスト:JPKI連携ミドルウェア、アプリライセンス、運用費
- システム連携コスト(最高額):本人確認データを直接勘定系システムに取り込むためのAPI改修、および連携後の個人情報保護のためのセキュリティ強化が必須
このため、1拠点あたり数万円から十数万円程度の機器導入コストに加え、システム全体の連携改修費用が数千万円規模になる可能性があります。準備期間が限られる中、金融機関には大きな負担となっていますが、これは単なる規制強化ではなく、高度なデジタルインフラへの移行という本質的な社会変革のためのコストといえます。
まとめ:セキュリティと利便性の新時代へ
2027年4月施行予定のICチップを活用した本人確認制度は、私たちの生活に大きな変化をもたらす見込みです。この改正案は現在パブリックコメント募集中ですが、偽造身分証による犯罪を防ぐとともに、日本全体のデジタルインフラを統一するという国家戦略の一環として位置づけられています。
最初は暗証番号の入力やPINロックのリスクなど、新たな摩擦要因に戸惑うかもしれません。しかし、この変更は単なる規制強化ではなく、より安全で信頼できる社会基盤を構築するための重要な一歩です。
今から準備を始めれば、2027年4月を迎えても慌てることはありません。マイナンバーカードの取得、暗証番号の確認、マイナポータルアプリのインストールなど、できることから始めてみましょう。あなたの大切な資産を守るため、そして社会全体の安全のため、新しい本人確認制度を前向きに受け入れていきましょう。
警察庁「犯罪収益移転防止法施行規則改正案」(2024年9月13日公示・パブリックコメント募集開始)
デジタル庁「公的個人認証サービス(JPKI)関連資料」
金融庁「本人確認に関するガイドライン」
※本記事の情報は2025年12月時点のものです
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