バターとマーガリン、健康への影響を決める本当の違いとは
スーパーの油脂コーナーで、バターとマーガリンを前にして悩んだ経験はありませんか。見た目も使い方も似ているこの2つですが、健康への影響を左右する最も重要な違いは「飽和脂肪酸」の含有量にあります。血中LDLコレステロール値に直接影響するこの成分について、日本食品標準成分表2020年版(八訂)の正確なデータをもとに、科学的に解説します。
この記事で紹介する数値は日本食品標準成分表2020年版(八訂)に基づいています。製品により若干の差異がある場合がありますので、詳細は各製品の栄養成分表示をご確認ください。
健康への影響を決める2つの重要な成分
バターとマーガリンを比較する際、多くの方が注目するのはコレステロール値です。しかし現代の栄養学では、血中LDLコレステロール値を上昇させる最大の要因は、食品に含まれるコレステロールそのものではなく、飽和脂肪酸の摂取量であることが明らかになっています。まずは両者の数値を正確に見ていきましょう。
コレステロール含有量の比較(10gあたり)
動物性脂肪由来
植物性油脂中心
大きな違い
確かにコレステロール値には約42倍もの差があります。しかし、健康への影響という観点では、飽和脂肪酸の含有量こそが最も重要な指標なのです。
飽和脂肪酸含有量の比較(10gあたり)
脂質の約61%が飽和脂肪酸
脂質の約28%が飽和脂肪酸
バターの方が多い
バターは飽和脂肪酸が約2.2倍多く含まれています。この飽和脂肪酸こそが、血中のLDL(悪玉)コレステロールを増加させる主要因となるのです。
そもそもバターとマーガリンは何が違うのか
この大きな差は、原料の違いから生まれています。製造過程と成分を理解することで、適切な選択ができるようになります。
バターの特徴
バターは生乳や牛乳から作られる乳製品です。牛乳の脂肪分を集めて固形化したもので、動物性脂肪が主成分となります。そのため、動物性食品に含まれるコレステロールが自然に含まれることになります。濃厚な風味とコクは、この乳脂肪ならではの特性です。
マーガリンの特徴
マーガリンは植物油脂を主原料として作られます。コーン油、大豆油、なたね油、パーム油などの植物由来の油に、乳成分や食塩、ビタミンなどを加えて製造されます。植物性油脂には元々コレステロールが含まれていないため、完成品のコレステロール量も極めて少なくなるのです。
| 項目 | バター | マーガリン |
|---|---|---|
| 主原料 | 生乳・牛乳(動物性) | 植物油脂(植物性) |
| コレステロール | 21mg/10g | 0.5mg/10g |
| 風味 | 濃厚でコクがある | 軽やかであっさり |
| 適した用途 | お菓子作り、風味重視の料理 | トースト、炒め物、日常使い |
| 価格帯 | 比較的高価 | 比較的リーズナブル |
なぜ飽和脂肪酸が重要なのか
ここで重要な科学的事実をお伝えします。多くの方が「食品に含まれるコレステロールを摂ると、そのまま血中コレステロールが上がる」と考えていますが、これは大きな誤解です。
血中コレステロール値を上げる本当の原因
私たちの体内のコレステロールの約70〜80%は、肝臓で合成されています。食事から摂取するコレステロールは全体の20〜30%に過ぎません。
さらに重要なのは、食事から摂取する飽和脂肪酸が、肝臓でのLDLコレステロールの合成を促進し、血中LDL値を上昇させるという仕組みです。
このため、日本人の食事摂取基準(2020年版)では、食事からのコレステロール摂取目標量は設定されておらず、代わりに飽和脂肪酸の摂取を総エネルギーの7%以下に抑えることが推奨されています。
LDLコレステロールとHDLコレステロール
コレステロールには2つの主要なタイプがあります。LDL(悪玉)コレステロールは血管壁に蓄積し動脈硬化のリスクを高めますが、HDL(善玉)コレステロールは余分なコレステロールを回収します。飽和脂肪酸の過剰摂取は、主にLDLコレステロールを増加させることが研究で明らかになっています。
コレステロール自体の重要な役割
誤解のないように付け加えますが、コレステロール自体は体にとって必要不可欠な成分です。細胞膜の構成要素となり、性ホルモンや副腎皮質ホルモンの原料となり、ビタミンDの合成や胆汁酸の生成にも関わっています。問題は飽和脂肪酸の過剰摂取による血中LDL値の上昇なのです。
あなたに合った選び方の基準
バターとマーガリン、どちらを選ぶべきかは、あなたの健康状態や生活スタイルによって変わります。以下のチェックポイントを参考にしてください。
選択のチェックリスト
- 健康診断でLDLコレステロール値が高めと指摘されたことがある
- 家族に心疾患や動脈硬化の病歴がある
- 毎日トーストにたっぷり塗って食べる習慣がある
- 料理やお菓子作りで風味を重視したい
- コストパフォーマンスを考えたい
バターのメリット
- 天然の乳製品で添加物が少ない
- 料理に深い風味とコクを与える
- お菓子作りで本格的な味わいを実現
- ビタミンAが豊富(100gあたり約500μg)
- 加熱調理時の香りが食欲をそそる
バター使用時の注意点
- 飽和脂肪酸が多く、LDL値上昇のリスク
- 天然由来のトランス脂肪酸を含む(約1.9g/100g)
- 価格が比較的高い
- 冷蔵庫から出してすぐは硬い
- 保存期間がマーガリンより短い
マーガリンのメリット
- コレステロールがほぼゼロ
- 飽和脂肪酸がバターの約半分
- 不飽和脂肪酸が豊富
- 製品改良によりトランス脂肪酸が大幅に低減(多くが1g/100g以下)
- 冷蔵庫から出してすぐ使える柔らかさ
- 価格がリーズナブル
マーガリン使用時の注意点
- 風味がバターより控えめ
- 製品により添加物が含まれる
- お菓子作りでは風味が物足りない場合も
- 製品による品質差が大きい
- カロリーはバターとほぼ同等
実生活での賢い使い分けと製品選択
栄養学の観点から推奨するのは、用途と健康状態に応じた使い分けです。どちらか一方だけを使う必要はありません。さらに、バターとマーガリン以外にも選択肢があることを知っておきましょう。
多様な油脂製品の選択肢
市場には、バターとマーガリン以外にも様々な油脂製品が存在します。
- ファットスプレッド:マーガリンよりも脂肪含有率が低い(80%未満)製品。カロリーを抑えたい方に適しています。
- 植物ステロール配合マーガリン:コレステロールの吸収を抑える植物ステロールが添加された製品。LDL値が気になる方向けの機能性製品です。
- 発酵バター:クリームを発酵させて作るバター。独特の風味があり、お菓子作りで人気があります。
- ギー(澄ましバター):バターから水分とタンパク質を取り除いた油脂。高温調理に適していますが、飽和脂肪酸の含有率は高くなります。
それぞれの特性を理解し、用途に応じて選択することで、より豊かな食生活が実現できます。
バターを選ぶべきシーン
風味を重視したい料理や、特別な日のお菓子作りにはバターが適しています。焼き菓子、ソテー、風味付けのための仕上げなど、味わいが決め手となる場面で活躍します。
ただし、使用量には注意が必要です。バター10gには約5.0gの飽和脂肪酸が含まれています。日本人の食事摂取基準では、飽和脂肪酸の摂取を総エネルギーの7%以下に抑えることが推奨されています。これは、1日2000kcalの食事であれば約15.6g以下に相当します。
重要なのは、飽和脂肪酸は肉類、乳製品、チーズなど他の食品にも多く含まれているという点です。バター単体の量だけでなく、1日の食事全体での飽和脂肪酸の総量を意識することが大切です。バターは1日10〜15g程度を目安とし、他の食品とのバランスを考えましょう。
マーガリンを選ぶべきシーン
毎朝のトースト、日常的な炒め物、サンドイッチ作りなど、頻繁に使用する場面ではマーガリンが便利です。コレステロール値を気にされている方の日常使いには特におすすめできます。
健康状態に応じた賢い選択
LDLコレステロール値が高めの方:飽和脂肪酸の摂取を抑えることが重要です。日常使いはマーガリン中心とし、バターは特別な料理で少量使う程度にしましょう。
LDL値が正常範囲の方:飽和脂肪酸の総量に注意しながら、風味を楽しむバターも適量使用できます。ただし、肉類や乳製品など他の食品からの摂取量も考慮してください。
心疾患のリスクがある方:主治医の指導に従い、飽和脂肪酸の摂取量を厳密に管理することが必要です。不飽和脂肪酸が豊富な植物油脂を中心とした食生活が推奨されます。
年齢だけでなく、定期的な健康診断の結果に基づいて、個々の健康状態に合わせた選択をすることが最も重要です。
トランス脂肪酸について知っておくべき最新情報
マーガリンについて語る際、必ず話題になるのがトランス脂肪酸です。しかし、この問題については近年大きな変化がありました。
マーガリンのトランス脂肪酸は大幅に低減
かつてマーガリンには、製造過程で生成されるトランス脂肪酸が多く含まれていました。しかし、国内メーカーの技術改良により、現在のマーガリンのトランス脂肪酸含有量は大幅に低減されています。多くの製品で100gあたり1g以下となっており、日本人の平均的な摂取量はWHOの目標値(総エネルギー摂取量の1%未満)を大きく下回っています。
バターにもトランス脂肪酸は含まれる
意外に思われるかもしれませんが、バターにも天然由来のトランス脂肪酸が含まれています。日本食品標準成分表によると、バター100gあたり約1.9gのトランス脂肪酸が含まれており、製品によっては現在のマーガリンよりも多い場合があります。
トランス脂肪酸の健康影響を考える際は、マーガリンだけでなくバターも含めて、食事全体での摂取量を意識することが重要です。
今日から実践できる5つのポイント
- 毎朝のトーストにはマーガリンを薄く塗る(5g程度)で飽和脂肪酸を抑える
- 週末の特別な料理やお菓子作りには、風味を活かしてバターを少量使用
- 健康診断のLDL値を確認し、高めの場合は飽和脂肪酸の摂取量を調整する
- マーガリンは製品改良により安全性が向上していることを理解する
- バター、マーガリンだけでなく、肉類や乳製品など食事全体での飽和脂肪酸量を意識する
まとめ
バターとマーガリンのコレステロール値には約42倍の差がありますが、健康への影響を考える上で最も重要なのは飽和脂肪酸の含有量です。バターには飽和脂肪酸が多く含まれており、血中LDLコレステロール値を上昇させる主要因となります。
どちらが絶対的に優れているわけではありません。大切なのは、あなたの健康診断の結果、医師の指導、そして料理の目的に応じて適切に選択し、使い分けることです。
飽和脂肪酸の摂取は総エネルギーの7%以下を目標とし、バターを使用する場合は1日10〜15g程度を目安に、食事全体でのバランスを意識しましょう。
健康は日々の小さな選択の積み重ねから生まれます。この知識を活かして、科学的根拠に基づいた賢い食品選択をしていきましょう。
参考文献・データソース
- 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
- 農林水産省「トランス脂肪酸に関する情報」
- 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療相談に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医師や管理栄養士にご相談ください。
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