194km/hと268km/h、判決はなぜこれほど違う?
あなたは信じられますか?制限速度を3倍超えた超高速走行同士なのに、時速194キロで走行して人を死亡させた運転者が懲役4年6か月、一方で時速268キロなら懲役12年。
2026年1月、わずか5日の差で言い渡された2つの判決が、日本中に衝撃を与えています。どちらも制限速度を大幅に超えた超高速走行、どちらも尊い命が失われた悲劇的な事故。それなのに、なぜ刑の重さがこれほど違うのでしょうか。
その答えは、スピードの数字だけでは見えてきません。法律が見ているのは、もっと別の場所にあるのです。
2つの事故、明暗を分けた判決
まず、2つの事故の概要を整理してみましょう。
大分194km/h事故
過失運転致死罪
首都高268km/h事故
危険運転致死罪
大分194km/h事故の概要
2021年2月9日の深夜、大分市の県道交差点で発生しました。制限速度60km/hの道路を時速194km/hで直進してきた当時19歳(現在24歳)の元少年被告の車が、右折しようとした被害者の男性(当時50歳)の車に衝突。被害者は致命的な傷害を負い、帰らぬ人となりました。
一審の大分地裁は危険運転致死罪を認め懲役8年としましたが、2026年1月22日の二審・福岡高裁はこれを覆し、過失運転致死罪として懲役4年6月を言い渡したのです(朝日新聞・NHK等の報道)。
興味深いのは、一審は一般市民が参加する裁判員裁判で「危険運転」と判断したのに対し、二審のプロの裁判官3名は「過失運転」と判断した点です。遺族側は判決を不服として、上告を含めた対応を検討しています。
首都高268km/h事故の概要
2020年8月2日の朝、川崎市の首都高湾岸線で起きた事故です。彦田嘉之被告(56歳)が運転する高級スポーツカー・ポルシェが、時速200~268km/hで走行中に車線変更を行い、前方の車に追突。乗っていた高齢夫婦(当時70歳と63歳)が亡くなりました。
2026年1月27日、横浜地裁は危険運転致死罪の成立を認め、懲役12年(求刑15年)を言い渡しました(神奈川新聞・読売新聞等の報道)。
| 比較項目 | 大分194km/h事故 | 首都高268km/h事故 |
|---|---|---|
| 速度 | 194km/h(制限60km/h、3.2倍超過) | 200~268km/h(制限80km/h、2.5~3.4倍超過) |
| 道路状況 | 直線の県道交差点 | 首都高湾岸線(合流多数) |
| 運転の挙動 | 自車線を直進 | 車線変更後に追突 |
| 判決 | 過失運転致死・懲役4年6月 | 危険運転致死・懲役12年 |
| 裁判所の評価 | 進路逸脱やふらつきが確認されず、法的には制御困難と評価されなかった | 車線変更不能→制御困難 |
判決の分かれ目は「制御困難」の認定
両事件の命運を分けたのは、「進行を制御することが困難な高速度」という法律の要件を満たすか否かという一点でした。
危険運転致死罪が成立するには、単に「スピードが速い」だけでは不十分です。車両の進行を物理的に制御できない状態だったことを、客観的な証拠で証明する必要があるのです。
福岡高裁が194km/hで「制御困難」を否定した理由
報道によると、福岡高裁の平塚浩司裁判長は、次のように判断しました。
- 道路は舗装された平坦な直線であり、構造的な危険は低かった
- 衝突直前まで車線からはみ出さず、ふらつきもなかった
- 一審が採用したプロドライバーの走行実験は、被告の車とは車種が異なり証拠価値が低い
- 被告車両の具体的な性能限界が立証されていない
つまり、進路逸脱やふらつきが確認されなかったため、法的には制御困難とまでは評価できないと判断されたのです。高裁は「日常用語としての危険運転か否かではなく、法律の構成要件を満たすかどうかが問題」とも指摘しています(朝日新聞・産経新聞等の報道より)。
横浜地裁が268km/hで「制御困難」を認定した理由
一方、報道によると、横浜地裁の足立勉裁判長は、こう述べました。
裁判所の判断
「合流や分岐が多い高速道路では、車線変更時でも進路を適切に保てる速度で走行しなければならない。被告の速度では安全な車線変更が不可能であり、車線変更によって事故に至った時点で走行制御を失っていた。これは常軌を逸した超高速度であり、悪質極まりない」(読売新聞・TBS NEWS DIG等の報道より)
ポルシェ事故では、速度の高さと道路環境の組み合わせが、他車を回避する操作そのものを不可能にしていたと評価されました。
なぜこんなに厳格なのか?法律の壁
多くの人が疑問に思うでしょう。194km/hでも十分に危険なのに、なぜ危険運転にならないのか、と。
裁判所の論理
- 法律は「危険か否か」ではなく「構成要件の充足」で判断する
- 過去の判例との整合性を重視
- 証拠による立証を厳密に求める
- 冤罪防止のため慎重に判断
遺族・社会の感覚
- 194km/hは常識的に危険極まりない
- 被害者の命の重さが反映されない
- 抑止力が働かない
- 遺族が上告を検討、議論を呼ぶ判決
実は、日本の危険運転致死傷罪には、速度の数値基準が存在しません。「時速◯km以上なら自動的に危険運転」という明確なラインがないため、個別の状況証拠によって判断されるのです。
この曖昧さが問題視され、法務省の法制審議会では速度や飲酒量の数値基準を設ける議論が行われています(日本経済新聞2024年11月報道等)。ただし、2026年1月時点では、具体的な基準や施行時期はまだ確定していません。今後の法改正の動向が注目されています。
194km/hで車は本当に制御可能なのか?
法律論はさておき、物理的に考えてみましょう。時速194km/hは、1秒間に約54メートル進む速度です。
高速度走行のリスク
- 反応時間の問題: 危険を認識してからブレーキを踏むまで約1秒。時速194km/hでは約54メートル進んでしまう
- 制動距離の増大: 速度が2倍になると、制動距離は4倍になる。時速194km/hからの停止には数百メートル規模の距離が必要とされる(路面状況・車両性能により大きく変動)
- 視野の狭窄: 高速になるほど周辺視野が狭まり、危険の察知が遅れる
- タイヤの限界: 一般的な市販車・市販タイヤでは、200km/h前後が安全マージンの限界域に近づくとされる(車種・タイヤ銘柄により異なる)
交通安全分野の研究や過去の実験結果では、一般道での194km/h走行は「極めて偶発性に依存する状態」と説明されることが多いとされています。しかし法律は、「事故が起きうる」ではなく「実際に制御を失っていた」ことを求めるのです。
この厳格な解釈は、冤罪を防ぐという刑事法の原則に基づいていますが、一方で被害者遺族からは「法律が現実の危険性に追いついていない」という声も上がっています。
今、私たちにできること
この2つの判決は、現行法の限界を浮き彫りにしました。遺族側は上告を含めた対応を検討しており、判決を巡る議論は今後も続く見通しです。
私たち一人ひとりにできることは何でしょうか。それは、まず危険運転を「しない」「させない」という意識を持つことです。
- 自分自身: どんな理由があっても、制限速度を大幅に超える運転は絶対にしない
- 同乗者として: 危険な運転をする人に対して、はっきりと止める勇気を持つ
- 社会として: 法改正を求める声を上げ、抑止力のある法律を作る
まとめ
194km/hと268km/h、2つの事故で判決が分かれたのは、速度の違いではありません。「車体が実際に制御不能だったと証明できたか」という法律上の立証の問題でした。
しかし、法律の壁は変えられます。私たち一人ひとりが安全運転を徹底し、悲劇を繰り返さない社会を作っていきましょう。
※本記事は各種報道機関(朝日新聞、読売新聞、神奈川新聞、NHK、TBS NEWS DIG、産経新聞、日本経済新聞等)の報道内容を基に、2026年1月時点の情報を整理したものです。判決理由の詳細については各報道機関の記事をご参照ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。具体的な法律問題については専門家にご相談ください。
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