ドローンに投資するのか?
2025年8月、日本政府が発表した二つの重要な決定が、防衛業界と国際関係に大きな波紋を広げています。一つは2026年度予算に1000億円超を投じる防衛用無人機の大量配備計画、もう一つは新興・途上国への非攻撃型ドローンの戦略的輸出です。この二つの動きは偶然ではありません。日本の安全保障戦略における根本的な転換点を示しているのです。
政府は、防衛用無人機の大量配備に向け、2026年度予算の概算要求に1千億円超の調達費を計上する方向で調整に入ったとされています1。ロシアとの戦闘でウクライナが使用したトルコ製の低価格無人機の取得も視野に入れると報道されています。陸海空3自衛隊への早期配備を重視する方針です。2025年度予算では小型攻撃用無人航空機に32億円が充てられています6。
従来の日本の防衛装備は「少数精鋭の高性能機器」に頼っていました。しかし、ウクライナ紛争では低コスト無人機が高価な装備に損害を与える事例が増加し、この常識に変化をもたらしました2。海上ドローンからのミサイルによる艦艇への攻撃など、非対称戦術の有効性が実証されています。
防衛省内に2025年4月に発足した「将来の戦い方を検討するチーム」3の存在も、この変化の重要性を物語っています。単なる装備更新ではなく、戦術そのものを根本から見直す必要があるという判断なのです。
注目すべきは、日本が「非攻撃型」に限定していることです。偵察、撮影、海洋監視、災害時物資運搬などの用途に特化することで、武器輸出への慎重なアプローチを維持しながらも、戦略的な影響力を拡大しようとしています。
この戦略の真の狙いは、中国製ドローンへの依存脱却にあります。現在、世界のドローン市場は中国企業が約70%のシェアを占めており4、多くの国がセキュリティ上の懸念を抱いています。
アメリカでは内務省が2020年に中国製ドローンの運用停止・新規調達停止を決定し、以降連邦政府レベルで広範な制限が進展しています5。各国は中国依存からの脱却を模索しており、日本はこの需要を的確に捉え、「安全で信頼できる代替選択肢」としてのポジションを確立しようとしているのです。
途上国支援の枠組みでの無償供与は、単なる善意ではありません。将来の輸出市場を開拓し、日本製品への信頼を構築する長期的な投資戦略なのです。
重要なのは、日本が「買うだけ」で終わらせないという姿勢です。海外からの調達で時間を稼ぎながら、国内製造体制の構築を並行して進める戦略は、韓国の造船業や台湾の半導体産業が歩んだ成功パターンと類似しています。
しかし、この壮大な計画には多くの課題が待ち受けています。
もしこの戦略が成功すれば、日本にとって大きな転換点となるでしょう。
防衛産業の輸出拡大により、技術開発費の回収と更なる投資が可能になります。新興国との関係強化は、単なる軍事協力を超えて、経済協力や政治的影響力の拡大にもつながるでしょう。
何より重要なのは、技術的独立性の確保です。他国製品への依存から脱却し、日本独自の技術で安全保障を確保できるようになることの意義は計り知れません。
注目すべきは、この1000億円投資が始まりに過ぎないということです。真の勝負は、これから始まる技術開発競争と国際市場での競争にあるのです。
1 共同通信「【独自】政府、防衛用無人機を大量配備へ 26年度予算に1000億円超」2025年8月12日
2 南華早報「Ukraine conflict demonstrates effectiveness of low-cost drones」関連報道
3 防衛省公式発表(2025年4月)
4 Drone Industry Insights市場調査レポート
5 Reuters「U.S. Department of the Interior grounds Chinese-made drones」2020年関連報道
6 毎日新聞「2025年度予算MQ-9B関連予算」報道
7 フィナンシャル・タイムズ「Global drone market projections」関連分析
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