多摩の命の砦が4月から休止へ
2026年2月27日、東京都は多摩地域で運航するドクターヘリを4月以降、当面休止する(再開時期未定)と発表しました。原因は深刻な整備士不足です。この記事では、ドクターヘリとは何か、なぜ休止になるのか、私たちへの影響はどうなるのかをわかりやすく解説します。
発表日:2026年2月27日(金)/東京都保健医療局2026年4月以降、多摩地域のドクターヘリは当面休止(再開時期未定)となります。山間部や交通が不便な地域にお住まいの方は特にご注意ください。2026年3月は17日間の運休が予定されています。掲載情報は発表時点のものです。最新状況は東京都公式サイトをご確認ください。
東京都のドクターヘリは2022年3月に運航を開始し、4年で多摩地域の救急医療に欠かせない存在となりました。2024年度(2024年4月〜2025年3月)の実績がその重要性を示しています。(出典:東京都保健医療局 2026年2月27日発表資料)
年間出動回数
患者数
予定運休日数
多摩地域の人口は約400万人。2024年度にドクターヘリで搬送された患者は341人、1日平均約4.3回出動していた計算になります。数字だけ見れば少数に映るかもしれません。これは決して他人事とは言えません。
全国に目を向けると、2025年7月以降、東京・長崎・大阪・兵庫・京都・奈良・和歌山・滋賀・鳥取・徳島の10都府県で運休が断続的に発生しています。全国57機のうち2割弱にあたる10機が影響を受けました(出典:日本経済新聞「ドクターヘリ運航休止続発」2025年11月6日)。東京都は特例ではなく、日経新聞など複数の報道機関が「全国規模の構造的問題」と指摘する事態の一部です。私たちの生活に直結する問題です。
関連報道映像:東京都ドクターヘリの一時休止について(TBS NEWS DIG)
「ドクターヘリ」という言葉は知っていても、救急車との違いを正確に知っている方は少ないかもしれません。その差は非常に大きく、命に直結します。
ドクターヘリとは「空飛ぶ救急治療室」
ドクターヘリは、医師・看護師と医療機器を乗せて事故や急病の現場に急行し、飛行中に治療を開始しながら病院へ搬送するヘリコプターです。救急車が病院に「運ぶ」専門であるのに対し、ドクターヘリは現場に「治療室を届ける」ものとイメージするとわかりやすいでしょう。
救急車 vs ドクターヘリ 比較
| 比較項目 | 救急車 | ドクターヘリ |
|---|---|---|
| 現場到着スピード | 道路状況に左右される | 渋滞・地形を問わず最短ルートで到達 |
| 医師の同乗 | 原則なし(救急救命士が対応) | 医師・看護師が同乗し現場から治療開始 |
| 山間部への対応 | 道路がなければ到達困難 | 地形を問わず着陸・ホバリングで対応 |
| 渋滞時の影響 | 大幅な遅延リスクあり | ほぼ影響なし |
| 搬送中の治療 | 限定的 | 飛行中に高度な医療行為が可能 |
「救命のゴールデンアワー」——なぜ15分が命を分けるのか
救急医療には「ゴールデンアワー(救命の黄金時間)」という概念があります。心停止・重症外傷など一刻を争う状態では、発症から治療開始までの時間が生死を直接左右します。一般に、心停止では1分ごとに救命率が約7〜10%低下するとされており、適切な治療が1分遅れるほど助かる可能性は下がっていきます。
ドクターヘリが「ただ速い乗り物」ではなく、医師が現場から治療を開始できる手段である意味は、このゴールデンアワーの観点から初めて正しく理解できます。
※一般的な救急医療の概念を図解したイメージです。実際の数値は症状・状況によって異なります。
今回の休止で影響を受けるのは、多摩地域を中心とした17市町村です。特に山間部は陸路での搬送に時間がかかるため、ドクターヘリへの依存度が高い地域です。
赤色は山間部・遠隔地で特に搬送時間への影響が大きいとされる地域です。
出典:東京都保健医療局の公式発表に基づく対象地域
「なぜ他から整備士を連れてこられないのか」と思う方も多いでしょう。実はヘリの整備士不足には、報道各社も「簡単には解決できない構造的な問題」と指摘する複数の要因が絡み合っています。
資格取得だけでは不十分——実務経験の壁
ヘリコプターの整備士には、国土交通省の航空整備士国家資格が必要です。しかしそれだけでは足りません。ドクターヘリに搭乗できる整備士には、資格取得後に数年以上の実務経験が求められます。「免許はあっても経験がなければ採用できない」という現場の実態が、新しい整備士の参入を阻んでいます。
大手航空会社との「人材争奪戦」が激化
近年、経験を積んだ整備士が航空会社や大手企業へ転職するケースが増えています。給与・待遇・将来性の面で優位な大手への人材流出が止まらず、ドクターヘリを担う運航会社は人材確保に苦しんでいます。
育成には長期の実務経験が必要——今日始めても解決は先
仮に今日から補助金を投じて整備士を育て始めても、即戦力として現場に立つには数年単位の経験が必要とされます。つまり今できることを積み重ねながら、長期的な視点で制度を設計しなければならない問題です。
2025年夏以降、全国各地でドクターヘリの運休が相次いでいます。関西や長崎など複数地域でも同様の運休が発生しており、日本経済新聞・共同通信など複数の報道機関が「日本の救急医療が抱える構造的な課題が表面化している」と報じています。
エッセンシャルワーカー全体の人材不足と少子化が重なり、「ドクターヘリの整備士を増やすと他の現場の人手が減る」という厳しいトレードオフが現実として存在しています。
今回の休止は突然の出来事ではありません。昨年夏から半年以上にわたり問題が積み重なっていました。
| 時期 | 出来事 | 状況 |
|---|---|---|
| 2022年3月 | 東京都ドクターヘリ事業 開始 | 通常運航 |
| 2025年8月〜 | 整備士不足が顕在化。月5〜8日間の運休が続く(9月を除く) | 断続的運休 |
| 2025年10月〜 | 通常通りの運航ができない状態が常態化 | さらに悪化 |
| 2026年3月 | 17日間の運休が予定(5〜10日・16〜26日) | ほぼ半月休止 |
| 2026年4月〜 | 新たな委託先が見つからず、当面休止(再開時期未定)を発表 | 当面休止 |
ドクターヘリには救急車にはない強みがあります。一方で、今回の休止により生じる課題も正直にお伝えします。
- 山間部・渋滞地帯でも素早く現場へ到達
- ヘリ内で医師がすぐに治療を開始できる
- 遠方の専門病院への迅速な搬送が可能
- 救急車が通れない場所でも対応できる
- 山間部・奥多摩エリアでの搬送に時間がかかる恐れ
- 交通渋滞時の救急搬送が遅れる可能性
- 消防ヘリには医師が同乗しないため現場治療が限定的
- 再開の見通しが立っておらず長期化のリスク
「消防ヘリが代わりに飛ぶから大丈夫」と思っている方も多いかもしれません。しかし、消防ヘリとドクターヘリは役割が根本的に異なります。
- 消防ヘリには医師は乗っていますか?
原則として医師は同乗していません。消防ヘリの主な役割は「搬送」です。ドクターヘリは医師・看護師が同乗し、現場到着から飛行中ずっと治療を継続できます。 - 東京消防庁のヘリは多摩地域をカバーできますか?
東京消防庁の防災ヘリは大型機が中心で、主に離島部への出動を想定しています。都は「多摩地域への転用は難しい」としており、ドクターヘリの完全な代替にはなりません。 - 神奈川・埼玉のドクターヘリは頼めますか?
東京都は隣接県への協力を要請する方針です。ただし、隣県のヘリが多摩境域まで到達するには時間がかかり、各地域での出動業務との兼ね合いもあります。
- 対象は多摩地域17市町村(八王子・町田・奥多摩など)
- 休止開始は2026年4月以降、期間未定
- 消防ヘリは「搬送専門」でドクターヘリの完全な代替にはならない
- 休止中は救急車・消防ヘリで対応。隣接県にも協力要請
- 即戦力化には長期の実務経験が必要とされ、短期解決は困難
- 整備士不足は東京だけでなく、報道各社が指摘する全国規模の課題
東京都のドクターヘリ休止は、整備士という「縁の下の力持ち」が社会に不可欠であることを改めて示した出来事です。「行政のニュース」ではなく、あなたや家族の命に関わる問題として受け止めてください。
都は早期再開を目指していますが、各報道が指摘するように整備士不足は短期では解決しにくい構造的な課題です。今できることを一つひとつ確認しておきましょう。
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