Stray Kidsのツアー売上287億円!でもJ-POPアーティストが世界を狙わない理由とは?
2025年、あるニュースが音楽ファンの間で話題になりました。K-POPグループStray Kidsの年間ツアー売上が287億円(1億8,570万ドル)に達し、世界130万人を動員したというのです(Billboard 2024年12月発表)。一方で、日本には世界第2位の音楽市場があります。
なぜK-POPは世界中のスタジアムを埋めるのに、J-POPは主に国内でライブを開催するのか。この違いは単なる戦略の差なのでしょうか、それとも構造的な理由があるのでしょうか。
記事の情報について
この記事では2025年12月時点の最新情報をもとに、K-POPとJ-POPの売上戦略の違いを分析しています。データはIFPI(国際レコード産業連盟)、Billboard、厚生労働省、総務省など各種公的統計および業界レポートに基づいています。数値は推計値を含みます。
数字で見る衝撃の格差:国内市場の大きさと海外展開の差
日本の音楽市場規模
世界第2位の巨大市場
※IFPI Global Music Report 2024より韓国の音楽市場規模
日本の約3分の1
※IFPI Global Music Report 2024よりK-POPの海外売上
国内市場の3倍
※業界推計値(2024年)一見すると日本の方が圧倒的に有利に見えます。実際、日本の音楽市場は韓国の約3倍の規模を誇ります。しかし、注目すべきは海外展開です。
さらに、日本の市場規模が大きい理由の一つは、いまだにCD(フィジカル)が市場の約45%を占める(2024年IFPI推計)特殊性にあります。世界的にはストリーミングが主流(約70%)ですが、日本ではCD販売という盤石な現金収入源があるため、海外進出というリスクを急ぐ必要がなかったのです。
K-POPの海外売上は国内市場の3倍にも達し、韓国にとって音楽は輸出産業そのものです。一方、J-POPの海外展開規模は相対的に小さく、収益の大部分が国内市場から生まれているのが現状です。
そもそもなぜこんなに違うのか:市場環境が生んだ戦略の違い
韓国:生き残るために世界へ
韓国の人口は約5,100万人。国内だけでは音楽ビジネスの規模に限界があります。そのため、K-POP業界は最初から世界市場を前提にアーティストを育成してきました。
1998年の韓国通貨危機以降、韓国政府はコンテンツ産業を国家戦略として位置づけました。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)を設置し、海外進出のための資金援助や人材育成、マーケティング支援など、様々な形で音楽産業を後押ししてきました。
日本:国内市場で十分だった
対して日本は人口1億2,700万人を抱える巨大な国内市場があります。国内だけで十分なビジネスが成立するため、あえて海外に出る必要性が低かったというのが実情です。
実際、2000年代までの日本の音楽業界は世界第2位の市場規模を誇り、国内でCD販売やライブ興行で十分な収益を上げていました。海外進出にはリスクとコストが伴うため、わざわざ挑戦する動機が弱かったのです。
しかし現在、日本は少子高齢化が急速に進行しており、2023年の出生数は前年比5.1%減と8年連続で減少(厚生労働省統計)。65歳以上の高齢者が全人口の30%を超え(総務省統計)、国内市場は縮小傾向にあります。この人口動態の変化が、J-POPアーティストが近年急激に海外へ目を向け始めた最大の内的動機となっています。
戦略の核心:育成システムとコンテンツ配信の差
| 項目 | K-POP | J-POP |
|---|---|---|
| 育成期間 | 長期間の練習生制度(数年間) | 短期間、個別育成が多い |
| デビュー時の完成度 | 歌・ダンス・語学を完璧に | 成長過程も含めてファンと共有 |
| コンテンツ配信 | YouTube等で無料・世界同時公開 | 著作権管理重視、配信制限あり(近年改善傾向) |
| メンバー構成 | 多国籍メンバー採用 | 日本人中心 |
| 言語戦略 | 英語フレーズ混用、多言語字幕 | 日本語中心(海外では字幕付与) |
練習生システムの徹底
K-POPの大手事務所では、将来のスターを幼少期からスカウトし、長期間かけて徹底的にトレーニングします。グループやアーティストによって異なりますが、一般的に数年間のトレーニング期間を経て、歌唱力、ダンス、外国語、さらにはメディア対応まで、デビュー時点で高度なパフォーマンスができる状態に仕上げるのです。
無料コンテンツ戦略
K-POPの特徴は、YouTubeやSNSでMVや練習動画を無料で世界同時公開すること。日本のように地域制限をかけず、誰でもアクセスできるようにしています。
無料で十分にアーティストの魅力を発信すれば、ファンは有料コンサートやグッズ購入に進んでくれる、という考え方です。実際、2024年のBillboardデータでは、K-POPのMV再生回数は数億単位に達しています。
メリットとデメリット:両者の光と影
K-POPのメリット
- 世界中どこでも収益化できる
- デジタル配信で拡散力が高い
- 多様なファン層を獲得
- ツアー売上が莫大
- 政府支援で初期投資リスク軽減
K-POPのデメリット
- 練習生の過酷な競争(年100組デビュー、大半が2年以内に消える)
- コンテンツの均質化リスク
- 国内市場の空洞化
- CD多売戦術への批判
- 大手事務所の内紛や業界課題(2024~2025年)
- 莫大な宣伝費・移動コストで利益率が低い場合も
J-POPのメリット
- 巨大な国内市場で安定収益
- 音楽的多様性が高い
- ファンとの距離が近い
- アニメタイアップで世界進出の道も
- CD販売でしっかり収益確保
J-POPのデメリット
- 人口減少で市場縮小リスク
- デジタル化の遅れ(改善中)
- 海外展開ノウハウ不足
- 言語の壁(日本語歌詞が前提)
- グローバル競争で後れ
変わりつつある境界線:J-POPの逆襲が始まった
ただし、2024年以降、状況は大きく変わりつつあります。YOASOBI、藤井風、Creepy Nuts、Adoといった日本のアーティストが、日本語のまま海外で大ヒットを記録しています。
YOASOBIの「アイドル」は2023年にBillboard Global Excl. USチャートで日本語楽曲として初の首位を獲得し、Global 200でも最高7位を記録。藤井風の「死ぬのがいいわ」はタイのTikTokをきっかけに、主要音楽メディアで複数の国・地域のチャート1位を記録したと報じられています。Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」もYouTube Musicのグローバルウィークリーで首位を獲得しています。
これらのアーティストは、K-POPのデジタル戦略を吸収しつつ、日本独自の音楽性を武器にしています。つまり、日本語で歌っても世界で支持される例が増えつつあるのです。
一方、K-POPも転換期を迎えている
2025年、K-POPも新たな課題に直面しています。韓国の音楽市場は2024年に前年比5.7%減(IFPI)となり、成長が鈍化。大手事務所の内紛や、過度なファン活動への疲弊など、持続可能性が問われ始めています。
さらに、K-POPの手法を採用した「ローカライズグループ」(NCT WISH、KATSEYEなど)が各国でデビューしており、「韓国人である」ことよりも「K-POPシステム」そのものが輸出されています。これは戦略の進化であると同時に、アイデンティティの希薄化というリスクも孕んでいます。
押さえておきたい5つのポイント(2025年版)
- K-POPは国内市場の小ささゆえに世界戦略を必然的に選択した
- J-POPは巨大な国内市場(CD依存45%)があるため海外展開の必要性が低かったが、人口減少で転換期
- K-POPは政府支援、練習生システム、無料配信戦略で世界展開を実現
- J-POPは国内ファンとの近さ、音楽的多様性、アニメ・ボカロ文化が強み
- 2025年、J-POPは日本語のまま海外ヒット事例が急増、K-POPは成長鈍化で転換期
今後の展望:J-POPはどう動くべきか
日本政府は2033年までに日本発コンテンツ産業の海外市場規模を20兆円にする目標を掲げています(知的財産戦略本部「新たなクールジャパン戦略」2024年6月)。2023年時点の約5.8兆円から10年で3.5倍です。
音楽業界でも、デジタル配信の積極活用、SNSマーケティング、海外ツアーの拡大など、変化の兆しが見えています。King Gnuは2024年のアジアツアーで全公演ソールドアウト、YOASOBIの香港公演チケットは1秒で完売しました。
2025年の最新動向
2025年に入り、さらに具体的な動きが加速しています。日本の主要レーベルは海外向けプレイリストへの楽曲配信を強化し、アニメとのグローバル同時配信タイアップも増加傾向です。
また、ボカロ文化由来の複雑なメロディラインが、ストリーミング時代の「スキップされない楽曲」として世界的に評価されており、YOASOBIやAdoの成功はこの文脈で理解できます。アニメ楽曲も、単なる「付随物」から独立した音楽作品として海外で評価される流れが定着しつつあります。
重要なのは、K-POPを真似るのではなく、日本の強みを活かした独自の世界展開です。アニメとの連携、日本語の美しさ、多様な音楽性。これらはJ-POPにしかない武器なのです。
実際、K-POPは「アイドル」が主流ですが、J-POPは「バンド」「シンガーソングライター」「ボカロ系」「ネット出身」とジャンルが極めて多様です。この多様性こそが、グローバル市場での「ニッチな強み」になり得ます。息の長いアーティスト活動という点でも、J-POPには優位性があります。
まとめ:どちらが優れているわけではない
【重要】この記事の結論: K-POPとJ-POPの違いは、優劣の問題ではありません。それぞれが置かれた市場環境と文化的背景から生まれた、合理的な戦略の結果です。
K-POPは生き残るために世界を目指し、圧倒的なパフォーマンスとデジタル戦略で成功を収めました。J-POPは豊かな国内市場を基盤に、多様性と深みのある音楽文化を育んできました。どちらも正しい選択だったのです。
今後は、両者の良いところを学び合いながら、それぞれが独自の道を進んでいくでしょう。日本のアーティストが日本語で世界のステージに立つ日は、もうすぐそこまで来ています。
最後までお読みいただきありがとうございます。↓↓のバナーをクリックして応援いただけると嬉しいです。













