あなたの街の病院で看護師が足りなくなる日が、想像より早いかもしれません
「看護師が足りない」という声が各地から上がる一方で、看護師を育てる専門学校には学生が集まらなくなっています。2025年度の入学者数は約2万868人。定員充足率は79.5%と、調査開始以来初めて8割を下回りました。
これは単なる少子化の問題ではありません。国の修学支援制度(2020年開始)が整備されたことで、低所得世帯でも私立大学に通いやすくなり、「同じ費用なら大学を目指す」という受験生の合理的なシフトが静かに進んでいます。大学の看護学部はほぼ満員を維持しているのに、専門学校だけが空席を増やしているのはそのためです。
この記事では、厚生労働省が公表した調査データをもとに、専門学校の入学者が減り続けている構造的な理由と、それが地域の医療現場にどんな影響を与えているかを整理します。
いま何が起きているのか:数字で見る現状
まず、今回の調査で明らかになった主な数値を確認しておきましょう。専門学校と大学でまったく逆の動きが起きていることがわかります。
大学との格差、ここまで広がった
2017年度に約2万8,434人いた専門学校の入学者は、この8年間で約7,566人減りました。対して、大学の看護学部・学科の入学者は同時期に増加傾向が続いており、充足率は99.7%と、ほぼ満員の状態を維持しています。専門学校と大学の入学者の合計は5年連続で減少しているものの、その構成比は大きく変化しています。
厚労省の検討会では、「専門学校の卒業生は地元で就職する割合が高い」という指摘も出ました。専門学校の学生が減ることは、地方病院の看護師確保にとって特に深刻な問題です。
よくある疑問に答える:なぜ専門学校は減り、大学は増えているのか
「看護師になるなら専門学校でも大学でも同じでは?」と思う方は少なくありません。ここでは、この問題に関してよく聞かれる疑問を5つ取り上げて答えます。
主な理由は3つあります。1つ目は18歳人口の減少(少子化)です。進学希望者そのものが減れば、まず定員が多い専門学校から影響が出やすくなります。2つ目は看護大学の新設・増設が進み、進学先の選択肢が分散したことです。3つ目は、修学支援制度(2020年開始)によって、低所得世帯でも大学に通いやすくなったため、「同じ費用なら大学を選ぶ」という判断が増えたことです。
資格(看護師国家試験の受験資格)は同じです。ただし大学では、4年間で学士の学位を取得できるため、将来の管理職昇進、大学院進学、保健師・助産師とのダブル受験などで有利になる場合があります。病院によっては大卒と専門卒で給与体系が異なるケースもあると言われており、長期的なキャリアを考えるときに大学を選ぶ学生が増えています(病院ごとに就業規則は異なるため、志望先の条件を個別に確認することをお勧めします)。
専門学校と大学を合計した入学者数は5年連続で減少しており、看護師を志す人の総数も緩やかに減少しているとみられます。背景には、夜勤・長時間労働・身体的負担の大きさが広く知られるようになったこと、他の職種の賃金が上昇した一方で看護師の賃上げが追いついていないことがあります。一方で「専門学校から大学へ移っただけ」という側面もあり、単純に「なり手がいなくなった」とも言い切れません。
厚労省の検討会では「専門学校の卒業生は地元で就職する割合が高い」と指摘されています。つまり専門学校が定員割れを起こしたり閉校したりすると、地方の病院・クリニックへの新卒看護師の供給が細くなるという懸念が生まれます。大学は都市部に多く、卒業後も都市部の大規模病院を選ぶ傾向があるとも言われており、地方ほど人材不足の影響を受けやすい構造が指摘されています(ただし就職先の分布については、一次統計での詳細な裏付けが必要な部分も残ります)。
厚労省は今冬にも高齢者人口がピークとなるとされる2040年時点の看護職需給推計をまとめる方針を示しており、看護師の養成・確保に関する対応策が示される見込みです。検討会では、専門学校への支援を求める意見も出ており、地域医療を守るための人材確保策が議論されています。ただし、抜本的な解決には賃金・労働環境の改善が不可欠という声は多く、財源とセットで議論が進む見通しです。
地域の看護師供給に直接的な穴が開く可能性があります。専門学校の卒業生は地元病院への就職率が高く、その学校が閉校すると、中小規模の地方病院は新卒採用が年々難しくなるという現実が待ちます。大学卒の看護師は都市部の大病院を選ぶ傾向が強く、地方のクリニックや中核病院にはなかなか来てもらえません。結果として、地元住民が受けられる医療の質・量が低下するリスクがあります。地域の医療を守るため、専門学校への財政支援や地域枠奨学金の拡充を求める声が、有識者検討会でも上がっています。
看護専門学校 vs 看護大学:5つの視点で比較
「どちらで学ぶべきか」という問いへの答えは、個人の状況によって異なります。以下の比較表を参考に、自分の優先事項と照らし合わせてみてください。
| 比較項目 | 看護専門学校(3年制) | 看護大学(4年制) |
|---|---|---|
| 修業年数 | 3年(最短で現場へ) | 4年 |
| 取得できる学位 | なし(卒業証書のみ) | 学士(大学卒業の学位) |
| 学費の目安 | 公立:約30〜80万円 私立:約150〜250万円 | 国公立:約250万円前後 私立:約400〜600万円 (修学支援制度で大幅減額も) |
| 初任給の差(目安) | 専門卒:約21〜22万円台 (病院規模による) | 大卒:約23〜24万円台 差額は月1.5〜2万円前後 |
| 就職後の待遇 | 病院により昇給が遅い場合も | 大卒手当・昇進で有利なケース多い |
| 地域への就職率 | 地元就職が多い傾向 (検討会でも指摘) | 都市部の病院を選ぶ傾向があるとも言われる |
| 充足率(2025年度) | 79.5%(初の8割割れ) | 99.7%(ほぼ満員) |
| 大学院・資格拡大 | 大学院進学には別途手続きが必要な場合も | 大学院・保健師・助産師への道が広い |
表を読むポイント
専門学校の最大の強みは「3年間で国家試験受験資格を取り、早期に収入を得られること」です。学費が抑えられる点も魅力で、特に公立の専門学校は低コストで通えます。一方、大学は「4年かかるが、その後のキャリアの幅が広い」という特性があります。どちらが優れているというわけではなく、目標とするキャリアパスと家庭の経済状況によって、最適な選択は変わります。
専門学校を選ぶことの利点と課題:冷静に整理する
専門学校への進学を検討するとき、メリットとデメリットを正直に把握しておくことが大切です。以下では、現場の声や調査データをもとに整理しました。
メリット
- 修業期間が短い:3年で国家試験受験資格を取得でき、1年早く働き始められる。その分の収入を早期に得られる。
- 学費が抑えられる:特に公立の専門学校は学費が低く、経済的な負担を減らして資格を取ることができる。
- 実践的なカリキュラム:臨床実習の比重が高く、卒業後すぐに現場で動けるレベルの技術が身につくと言われている。
- 地元就職につながりやすい:附属病院や地域の医療機関との結びつきが強い学校が多く、地元での就職を希望する場合に有利。
- 少人数制で手厚い指導:大学に比べてクラスが小さく、教員との距離が近い環境で学べる学校も多い。
課題・デメリット
- 学士を取得できない:卒業しても大学卒業の学位が得られないため、将来の就職・転職・昇進の選択肢が狭まる場合がある。
- 給与面で差が出ることも:病院によって大卒と専門卒で初任給や昇給ペースが異なるケースがあり、長期的な収入差につながることがある。
- 定員割れが続くと学校が閉校リスクも:充足率低下が続く中、一部の専門学校では募集停止・閉校の動きもあり、在学中の環境変化が懸念される。
- 大学院進学・資格拡大に制約:専門看護師や高度な研究職を目指す場合、別途、大学卒業資格の取得が必要になることがある。
- スケジュールがタイト:3年で資格を取るため、実習・演習・国家試験対策が密度高く組まれており、体力的・精神的な負担が大きい。
専門学校を取り巻く「構造的な変化」も理解しておく
今起きていることは、単純に「専門学校が人気を失った」ということではありません。高校生が大学進学を選びやすくなった制度的な変化(修学支援、大学新設など)が重なって、専門学校に進む動機が相対的に弱まったと理解するのが正確です。
立場別に違う「看護師不足」の現実
進路を考える方、地域医療に関わる方、政策や制度に関心がある方──。立場によって、この問題のどこに目を向けるべきかは異なります。ここでは3つの視点で整理します。
これから看護師を目指す高校生・保護者の方へ
「専門学校か大学か」を決める際は、修業年数・学費・将来のキャリアを照らし合わせて判断してください。修学支援制度を活用できる世帯なら、大学でも費用負担が抑えられるケースがあります。一方、地元の専門学校には「地域と密着した就職」という強みがあり、地元で働き続けたい方には有力な選択肢です。どちらが正解ということはなく、自分の優先順位を軸に選ぶことが最も重要です。
地方の病院・医療機関の担当者の方へ
専門学校の入学者減少は、数年後の新卒採用に直接影響します。地域の専門学校との連携(奨学金制度・実習受け入れ・採用保証)を今から整備しておくことが、人材確保の安定につながります。また、現職看護師の離職防止(勤務環境改善・育児支援・賃金見直し)も並行して取り組む必要があります。
看護師の待遇改善に関心がある方へ
入学者減少の背景には、職業としての魅力の低下があります。夜勤・不規則勤務・患者からの暴言リスクに対して、給与の上昇が追いついていないという指摘は、現役看護師からも多く聞かれます。診療報酬の見直しや、危険手当・夜勤手当の水準引き上げなど、処遇改善が入学者数の回復にも直結するという視点が重要です。
あなたはどちらを選ぶ?自分に合う進路を確かめるチェックリスト
専門学校か大学か、迷っているなら以下の問いを自分に当てはめてみてください。「はい」が多い方向が、あなたにとって現実的な選択に近いはずです。
- できるだけ早く現場に立ちたい、21歳で自立したい──なら専門学校(3年制)が最短ルート。収入開始が1年早い分、奨学金の返済も早まる。
- 将来は師長・認定看護師・専門看護師を目指したい──なら大学(学士取得)が有利。昇進・大学院進学・資格拡大の幅が広い。
- 地元の病院で長く働き続けたい──なら地元専門学校の「病院奨学金(返済免除あり)」を活用するルートが、自己負担を最小化できる。
- 修学支援制度の対象世帯かどうか確認した──対象なら大学の学費が大幅に下がり、「専門学校=安い」という前提が崩れる。進学前に必ず確認を。
- 看護以外の進路にも将来の可能性を残したい──なら大学が優位。看護学部卒でも一般企業への就職や進路変更がしやすい。
- 専門学校の入学を検討中なら、その学校の定員充足率・閉校リスクも調べた──在学中の学校環境変化は避けたい。地域に根付いた学校かどうかを確認しよう。
- 2040年問題を念頭に置いている──厚労省は需給推計のとりまとめ方針を示しており、公表後は地方の医療体制への影響も具体化される見込み。志望地域の動向を継続的に確認しておきたい。
まとめ:数字の裏にある「看護師を取り巻く現実」
「看護専門学校の充足率が8割を割った」というニュースは、数字だけ見ると衝撃的に映ります。ただ、その背景には複数の要因が絡み合っています。少子化による18歳人口の減少、看護大学の新設による進路の分散、修学支援制度の整備、そして看護職そのものの処遇への不満。これらが重なった結果が、今の状況です。
特に注視すべきは、地方の医療現場への影響です。専門学校卒の看護師は地元で働く割合が高く、その供給が細ることは、都市部よりも地方病院に直撃します。高齢化がさらに進む2040年に向けて、今どんな手を打つかが問われています。
あなたができること・知っておくべきこと
- 1 看護師を目指すなら、専門学校と大学の違いを「学費」だけでなく「将来のキャリア設計」と合わせて検討する。
- 2 修学支援制度の対象かどうかを事前に確認する。対象であれば大学進学の費用負担が大幅に変わる場合がある。
- 3 地方で働く看護師を目指すなら、地元の専門学校の奨学金制度・就職連携先を調べておく。
- 4 厚労省が方針として示している看護職需給推計の公表内容を確認し、今後の政策動向を把握する。
看護師という職業は、患者の命と日常生活を支える仕事です。その担い手が増えるためには、志ある人が無理なく働き続けられる環境づくりが欠かせません。数字の議論と並行して、現場で働く人の声に耳を傾けることが、この問題を考える上での出発点ではないでしょうか。
この記事をきっかけに、地域医療の未来を一緒に考えてみませんか。
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